南米上陸船の旅
中米と南米大陸の境、「パナマ」と「コロンビア」の国境は最も危険!歩いて(陸路で)渡ることは99パーセント不可能(死)だと言われている。国境付近の密林地帯は両政府も手を出せないほどゲリラの格好の住処になってしまっているのだ・・・。外務省の危険情報によるとパナマとコロンビアの国境付近(カルタヘナを含む)は、「渡航の是非を検討してください。」と観光目的で渡航することを勧めていない。
そんな危険な国境は、「空」を飛行機で飛んでしまうか、「海」を船で渡ることしか出来ない。僕達は今回、カリブ海沿岸の350以上の島が集まる「サンブラス諸島」に行くことも兼ねて、パナマの「パナマ・シティ」からクルーザーで5日間の大航海、一路コロンビアの海沿いの町「カルタヘナ」を目指すことに決めた。
とは言うものの太平洋側の「パナマ・シティ」からカリブ海側の「ポルトベーロ」の町までは、陸路で移動。「パナマ運河」でカリブ海まで抜けた訳ではない・・・。バスを乗り継いで3時間、太平洋からカリブ海まで「あっ」という間に着いてしまう。「なるほど・・・。」パナマに運河が在るのは、世界で最も太平洋とカリブ海が近かったからだ。
1日目
カリブ海沿いの町「ポルトベーロ」はスペイン統治時代にその地理的な理由からとっても栄えた港町で、ここに在る要塞は現在「世界遺産」にも登録されるほど、なのだが・・・。世界遺産には無料では入れるし、資料館には1ドル掛かるのだが、管理している人が全く見当たらない・・・、人影もまばらで、中国人経営のスーパーと、僅かばかりの観光客とヨット・ハーバーのお客を相手にする小さなレストランが数件、BARが1件在るだけの至って寂しい町である・・・。この日は、寂しさに追い討ちをかけるような土砂降りの「雨」船長も含めて航海に参加する12人のメンバー全員がBARで飲んだくれている、
「本当に船が出港するのか?」
と不安になるが、僕たち以外のクルーはいたって気にしてなさそうだ・・・。
仕方ないのでBARの片隅で僕達も地元のおっさんの話に付き合いながら飲んでいた、日本人が珍しいらしく(中国人は一杯いるのに・・・)ビールを一杯おごって貰った。
「今日は、これで勘弁してやろう・・・。」(船中泊)
昨日、やっぱり船は出なかった・・・。この辺の適当さが中米らしい・・・。他のメンバーに何で船が出なかったのか聞いても良く解っていない・・・。「気にならないのだろうか・・・?」
朝から船長は「コロン」の町まで出港の手続きに行ってるけど、昼を過ぎても帰ってこない。昨日あんなに時間があったのに何で今日行ったのかも解らない・・・。中米の人の感覚は理解不能と思っていたら船長は「コロンビア人」バリバリの南米人だと言うことを思い出し、先行きがますます不安になる・・・。
仕方が無いので中国人経営のスーパーでビールを買って「世界遺産の要塞」の中で海を眺めながらビールを飲む。(こんな事をしていいのだろうか?)
結局、船長が帰って来た頃に時計の針は4時を回っていた。今日も何も無い小さな街で暇つぶしのような一日を過ごしてしまった。
夕食を船の中で食べた後、やっと出港。船長のおごりで乾杯のワインが振舞われた。明日の朝にはサンブラス諸島の入り口「ポルベニ-ル島」に着いている筈だ。
3日目
最高の気分でサンブラス諸島に着いている筈だったのに・・・。昨日の夜は最悪だった・・・。信じられないほど船が揺れた。殆ど熟睡できていない。夜中に何度も目を覚まし、目を開けると世界中がぐるぐると回っている。眠れないけど目をつぶって横になっているのが一番楽。トイレに行くにも必死で、あらゆる物にしがみついていないと自分が何所に行ってしまうか解らない・・・。
調子に乗って船の甲板で夜を明かそうと寝転んでいた外人たちは吐きまくり。海水を浴びてずぶ濡れ状態だったようだ・・・。「こんなに船が揺れるなんて・・・」想像もしていなかった。
揺れが収まった時、気分を晴らそうと船の外に出た。
灰色に覆われた空の隙間から光が刺して所々青い空が覗いている・・・。透き通るような青い海の上には小さな無人島のような島がたくさん見える・・・。「ああ、サンブラスに着いた。」胃の中の気分は一向に晴れないが、心の調子は一気に回復した。
僕達がやって来た島は「クナ」と言う「インデヘナ」(原住民)が3家族ほど住む小さな島、宿泊施設も無ければ電気も通っていない。青い海だけが360度広がっていて、島の砂浜から海の中を覗くと水族館のように魚達で溢れている。魚達は人間をそれほど警戒するわけでもなく、一緒に泳いでくれる。
「あ~!」
言葉にならない・・・。
遥か遠くの日本からは想像も出来ないような景色。「本」の中や、「ブラウン管」の中でしか見たことのない景色。その景色の中に自分がいる姿を何度も想像したことがあったけど、本当に自分がいる。「充実感」と「幸福感」を潮風と一緒に体中で深呼吸し、全ての細胞にそれが行き渡るような感覚になった。
この島は地形の影響で島の周囲200メートル位の所で「ゴー」と、絶え間なく大きな波が立っている。大きな波は砂浜までは届かずに消えてしまう・・・。
夜、空を眺めると雲の隙間から明るい星達が覗いている。日本で見るそれよりもはるかに明るい・・・。
バックグラウンドミュージックには、遠くから聞こえる鳴り止まない「ゴー・ゴー」と言う波の音。船にあたって弾ける「チャップ・ピチッ」と言う小さな波の音。耳を斬る風の音だけ。
「ぼーっ」と空を眺めていると身体が空気になって、つむじ風のように夜空に舞い上がってしまいそうな気分になる。
12人のクルーの中の一人、イタリア系スイス人の「グラシアーノ」が左利き用のクラシックギターを静かに引き始めた・・・。薄暗い船室の中の11人のクルーは静かにギターに聞き入った・・・。物語のワンシーンのような船内。前日の夜の喧騒が嘘のように静かな夜。昼間泳ぎすぎたせいで眠気が大きな波のように襲って来た「おやすみなさい・・・。」
4日目
島にあるインディヘナのお母さんが昼食の魚の下ごしらえをしていた。この島の食事は一日中「魚」。たまにドラム缶のオーブンで焼いた「パン」、野菜のスープ。それらの食事を観光客に安い値段で振舞ったり、「モラ」と言う民族衣装に使うキルト布を売ったりして生計をたてている。
子供達はちゃんと学校にも通っているし、お母さんから民族衣装の「モラ」の作り方も教えてもらっている。
昼食にインディヘナの食事を頂いた。
「素焼きの魚」に、「野菜のスープ」ライムと塩を添えてくれた。決して美味しいとは言えない。期待していたのに・・・。味気の無い料理にがっかりした。
日本のスーパーの棚にはカラフルな、溢れ出しそうな数と種類の調味料が並んでいる・・・。この島に調味料は無い・・・。現代の生活に慣れ、第三者的にこの島を楽しんで、決してインディヘナのような生活には入り込めない体質になってしまっていることを自分の舌で感じた・・・。
5日目
サンブラス諸島ともお別れ・・・。パナマ出国の手続きをしなくてはならないが、移民局の職員がまだ島に到着していないらしく「ポルベニ-ル島」にある移民局のオフィスが開かない。職員が着くのは夕方の4時だと言っていた。
出国できないことに苛着く船長がコロンビアの移民局に相談して「パナマ出国」のスタンプが無くても「コロンビア入国」ができることになった。
「そんな事が在り得るのか・・・?」出国しないで次の国に入れるなんて聞いたことが無かったのでかなり不安になる。黙って出国できる「パナマ」はまだしも、許可も無く出国して来た得体の知れない旅行者を平然と入国させてしまう「コロンビア」と言う国のいい加減さに恐怖を感じた・・・。
世界旅行始まってから11カ国目「コロンビア」の「カルタヘナ」に向けて36時間の航海の始まりだ。
港を抜けるとそこでは案の定高い波が立っている。子供の頃、遊園地で乗った「マジックハウス」の様に部屋がぐるぐると回る。立っていると船酔いになるのは確実。横になって目を瞑って時間が過ぎるのを我慢することしか出来なかった。
しばらくすると、夕食が運ばれてきた。お皿の上の料理をこぼさないように食べるのは至難の業、食べ終わる頃には疲れきってしまっている。あまり食欲も湧いてこないのだが・・・。
6日目
朝になった。太陽の光が小さな船室の窓から船内に入ってくる。まだ、船は揺れている。起き上がる気にもなれないが、狭いベットで寝ていたせいか腰がズキズキと痛む。寝返りが打てるような広さも無いので朝食のパンを食べるついでに外へでた。
船長のファビアンが「調子はどうだ?」と聞いてくる。
良いわけ無いが「いいよ。」と答えた。これ以外に答えるスペイン語が出てこない。
「最高の景色だろ・・・。」とファビアン
辺りは青を濃くした「ぐんじょう色」の海が大きく波を立てているだけの味気ない景色だ。
「綺麗だね・・・。」
とだけ答えた。これ以上のスペイン語が出てこない・・・。
一日中、腰がいたいのを我慢して船の中で横になってひたすら時間が過ぎるのをまった。
夕方、外に出ると今日の深夜にはカルタヘナに到着する予定だと船長が言っていた。思っていたよりも早いペースで進んでいるようだ。早く陸に上がりたい。たった一日しか船の中で過ごしていないのに既に陸が恋しい。
真夜中の十二時にはカルタヘナに到着する予定だったのに、2時間ほど手前でエンジンが「ゴトゴト」怪しい音を出し始めた。30時間以上回りっぱなしのエンジンは突如悲鳴を上げ、そのまま止まってしまったのだ…。
船長のファビアンとアレックスがエンジンルームを空けてなにやらガタゴトエンジンを直している。
再びエンジンをかけるファビアン
「ドロロロ・・・・」「ブウォンッ」
エンジンが大きな音を立てて再び動き始めたが三十秒も立たず弱々しく止まってしまった。
駄目らしい・・・。
船が止まっている間は波がなくて眠りやすいのだがエンジンを直す騒音とガソリンの匂い、エンジンの熱気が船内に充満してとても眠れるような状況じゃなかった。
夜明け前にやっと船は走り出した。
カルタヘナに着いた時、ちょうど綺麗な朝焼けを見ることが出来た。朝の太陽の光に照らされて遠くの方にカルタヘナのビル群が見える・・・。
「やっとたどり着いた」
クルー全員が誰に指示されるわけでもなく甲板に上がってきた。荒れていた海は信じられないほど静かになっている。
少しずつ近づいてくるカルタヘナの街並み。想像していたよりも都会に見える・・・。もう直ぐ世界旅行始まってから11カ国目、記念すべき南米大陸、第一歩目を踏むことになる・・・。
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